Masuk可愛いは正義勢:ウミちゃん、頑張って! 晴恋頑張れ:優勝決定戦が始まったな。 賭け金返して:グラスオースを20万ヴァル分買ったおw 夜月しか勝たん:夜月さんの変態パフォーマンスがあると聞いて。 炎上しろ:今日は視聴者数が格段に多いな。 キャルル丸の世話係:可愛いキャルル丸に期待。 シロハ:トウマさん、優勝を祈っています! メルフィ:トウマさん、約束通り見に来ました。 レディミラージュ:ベルフラウさんがまたやっつけちゃうんじゃない?w ログネストの寄生虫:優勝戦は魔物が出るからな。 ウミちゃんの水着で鼻血ブー:夜月をどう止めるかだな。 優勝決定戦が開始された。 岩壁に囲まれた半円形のフィールド。味方陣地の奥には青いクリスタルのオブジェがある。石造りの台座の上に設置された青い球体だった。クリスタルにもHPバーがあり、少々の耐久力がありそうだ。柔らかい土の地面の上。正面には地面がそのまま隆起したような丘がある。その左右には通路があった。ベルフラウは両手の甲を腰に当てて顔を硬くしている。気分だけがやけに高揚していた。 すでにパーティは組んである。 ニキがキャルル丸にまたがり、相棒に力強く告げる。「キャルル丸、真っ直ぐ上に飛ぶさ」「キャルルアアアッ!」 ――ルミナスウイング。 光の翼でキャルル丸が浮き上がる。隆起した丘よりも高く上昇した。偵察任務である。 可愛いは正義勢:ニキさんずるいw 賭け金返して:キャルル丸の偵察スキルw 夜月しか勝たん:おい、それは反則だろ! 夜月がニキの視線に気づき、苛立たしげに睨みつけた。やがてルミナスウイングが終わり、キャルル丸が着地する。ニキはトウマに報告した。「トウマさん、敵は動かないさ」「……やはりか」 読み通りというふうにトウマは二度頷く。 一昨日のセレクターvsオンリーレディ戦の録画でも、夜
その夜、ギルドバトルにオンリーレディのメンバーは現われなかった。 トウマたちは不戦勝となり、三回戦へ進むことになる。 ――クエスト昇格 ――ギルドバトルクエスト、優勝する 翌日の午後六時過ぎ。 牡鹿ホテルの前の道路だった。 軒先には鹿の彫刻が施された看板が提げられている。看板が風に揺られてカタンカタンと音を立てていた。一階のレストランからは料理のかぐわしい匂いが夜風に乗って運ばれてくる。すでに魔導具の街灯が点灯しており、辺りをほのかに照らしていた。路地には三毛猫が一匹いて、レストランの裏口前で伏せっている。ふと裏口が開き、黒いコックコートを着た従業員が出てきた。三毛猫が「にゃあ!」と媚びた鳴き声を上げて立ち上がる。従業員の差し出した弁当をガツガツと食べ始めた。従業員はしゃがみ込み、三毛猫の背中を愛おしそうに撫でている。視界の端で眺めていたトウマの心がほっこりと温まった。 石畳の地面の上で、晴恋とウミが武器を構えて対峙していた。ギルドバトル前の最後の特訓である。今日はどうしてか仲間たち以外にもプレイヤー数が多く、二人の周りを遠くから囲んで見物している。上品な服を着たNPCの子供が「てるてる坊主のお姉ちゃん、猫のお姉ちゃん、頑張って」と声援をかけた。晴恋が緊張したように唇を引き結ぶ。ウミのモフモフとした尻尾が嬉しそうにたゆんたゆんと揺れた。 ウミが静かに言い放つ。「晴恋さん、行きますですよ」「来い! ウミちゃん!」 晴恋の顔つきに臆病な色合いはもう無い。栗色の長髪が風に吹かれてさらさらと揺れた。たれ目の目尻が鋭さを帯びている。:ギルドバトル前の最後の特訓だな。:晴恋は強くなったの?:またまたグラスオースを一点買いしてきました!:おい、ギルドバトルはまだ始まってないぞw ニキが力強く応援した。「晴恋、頑張るさ!」「きゃるるぅ!」 ニキの隣にいるキャルル丸が右の前足を掲げる。 ステータス画面からウミが決闘申請を送る。 晴恋が了承をタップした。「行きますっ」 ウミがすぐに走り出す。地面を這うような前傾姿勢だ。 晴恋が指示棒を掲げて唱えた。「雲が出て来ました」 空の月が雲に陰る。ウミの身体が黒いもやに包まれてスピードを落とした。 ウミは立ち止まり、余裕そうに尻尾を振った。尻尾が怪しく揺れている。尻尾で威嚇して相手の動揺を誘
脳神経外科センターの個室だった。 白いベッドの上で、黒谷鬼助は天井を見つめていた。首から下が麻痺しており、もう頭を左右に動かすこともできない。脳梗塞は昨日から急激に悪化していた。少し前までなら、右半身を動かすことができたのに……。 視界にあるのは白い天井だけだ。模様もくすみも無い白だけが広がっている。他には何も映らない。くそったれだ。 窓辺には花瓶がある。あるはずだ。少なくとも少し前まではあった。スズランが挿してあったはずだ。だけど見たくても見られない。こんなに悲しいことはない。 あの電話の日。ユウマの口座には100万円を振り込んでおいた。最近は便利になったもんだ。スマホで何でもできちまう。自分の頼みをユウマが聞いてくれるとは思っていない。だが、もしかしたらその100万円は、彼に対する贖罪なのかもしれなかった。 一年前、あの食品メーカーの会社で鬼助はユウマをいたぶり過ぎてしまった。今、死にそうになって後悔が起こっている。(ああ、俺は本当にひどいことをしちまった) 馬鹿だった。 土下座して謝りたい。 だけど、(もっといじめておけば良かったかなあ) とも思う。 そういうところ、自分の性格は根底からねじ曲がっているのだろう。 ……昔はもう少し、マシな人間だった。 普通にサラリーマンをやっていた。 妻もいた。 デートにもよく出かけた。 そして二人の子供にも恵まれていた。 姉弟であり、名前はアクナとマナトだ。 漢字にすると、悪成と魔成人である。 誰だ? こんなひどい名前を考えた奴は?(まあ、俺なんだけどよ) 漢字のまま役所に届けようとしたところを、妻の真希が止めた。真希はせめて漢字ではなくひらがなにしようと言って聞かなかった。鬼助はしぶしぶ真希の要求を飲んだ形となる。おかげでせがれたちの名前はひらがなだった。(くそ、それに
ノーファン村のヤマネコ食堂。 軒先には猫の模様が描かれた看板が提げられていた。室内にはテーブルが九つあり、三列に並べられている。壁や床はくたびれており、黒くくすんでいる箇所もあった。古めかしい定食屋といった雰囲気である。カウンターの奥にはNPCの女将さんがいて椅子に腰掛けている。手慰みに編み物をしており、集中した表情で両手を動かしていた。カウンターの端には、女将さんが作ったのであろう猪や鹿のぬいぐるみが売られている。ぬいぐるみはちょっと不格好だが、見る人によっては愛嬌があり可愛いという印象を抱きそうだ。紙製の値札がついており手頃な価格だった。ガラス窓の脇には緑色のカーテンが束ねられている。午後四時を過ぎた太陽の光がじんわりと差し込んでおり、室内をオレンジ色に照らしている。 トウマとベルフラウが玄関をくぐる。 窓の外からは配信ドローンがしつこく撮影を続けていた。だけど相談の様子を視聴者に見られるのはよろしくない。そのためトウマとベルフラウは配信を中止した。配信ドローンが薄くなって消える。 食堂の隅っこの席で、二人の女性が並んで座っていた。他に客はいない。どうやらあの二人がシロハとメルフィのようだ。近づいて行くと、シロハは立ち上がって深々と一礼した。 トウマは軽く頭を垂れて声をかける。「こんにちは。あんたがシロハさんとメルフィさんか?」「トウマ団長様、それとベルフラウ副団長様、この度はお越し頂きありがとうございます」 シロハの顔に笑顔はない。震えている唇は怒りを押し隠しているようであり、声は硬かった。 メルフィの方はというと、座ったままおじぎもせずにひっくひっくと嗚咽をこらえている。ここにいるだけで精一杯の様子だ。 シロハが右手を差し出した。「お二人とも、座ってください」「ああ」「どうも」 トウマとベルフラウが並んで腰掛ける。 シロハも座った。「まず自己紹介ですが、私たちは――」 ベルフラウが右手のひらを掲げて制する。「シロハさん、いい。それよりも、教えてくれる? 貴方たちがどう
翌日の昼過ぎ。 トウマたちはルスプルの西の森に来ていた。青々とした木々の葉が風にさわさわと揺れている。オオルリが木の枝に止まっており、高い鳴き声で歌っていた。近くに川が流れているのか水の音もする。オオルリの歌と川音のハーモニーが耳に心地よい。モンスターさえ出なければ絶好の森林浴スポットだ。だけど今はモンスターに用事があった。 晴恋が両手に指示棒を持ち、地面の上を先頭で歩いていた。少し離れたところから仲間たちが追いかけて足を運んでいる。 ギルドバトルに向けた晴恋の特訓だった。今日は実戦である。:晴恋の修行があると聞いて。:フードのてるてる坊主の刺繍が可愛い。:ニキって腹筋割れてるよな。:裸にチョッキって、かなりセクシーな格好。 トウマの隣を歩いているウミが微妙な笑顔を浮かべた。右手を口に当ててこそこそとささやく。「ご主人様、大丈夫でしょうか?」「大丈夫だ」 頷いたトウマだったが、少々不安である。晴恋が危険になったらすぐにでも助けようと気を張っていた。 ニキも同じ気持ちのようで、白銀のキャノンを油断無く構えていた。その顔つきはギルドバトルの時よりも真剣な色合いを帯びている。恋人を死なす訳にはいかないのだろう。 ニキを背中に乗せているキャルル丸が「きゃあるぅー」と大あくびを一つした。 ふと晴恋が立ち止まった。 遠方正面からエリートオークとゴブリンファイターが一体ずつ現われる。「ぎゃばあ!」と笑い声のようなものを響かせて迫ってきた。 晴恋の両目がわなわなと震える。「ふ、ふわわ……」「晴恋、スキルを使う!」 アイギスが厳しい声で助言した。 晴恋が指示棒を掲げる。「そ、そうだよねアイ! えっと、本日の天気は快晴です」 空の太陽がぱあっと光った気がした。 その場にいる全員が白い光に包まれた。動体視力アップのバフがかかる。敵の動きが滑らかに映った。:独特なスキル名称。
静岡のログネストのマットルーム。 デスペナルティをくらった晴恋には一時間のログイン制限がかかっていた。 木製の薄い壁で隔てられた黒いマットルーム。天井からは空調の音がかすかに聞こえてくる。ジンジャエールのコップを持って一口含んだ。炭酸の利いた甘い液体を舌で転がす。 今、デスクトップを操作してギルドバトルの配信録画を見ている。ヘッドホンを耳に当てていた。VALORIUMの公式サイトには先ほどの配信録画がすでに掲載されていた。 やがて、自分が死んだ瞬間の映像が流れる。「ふ、ふわわあぁぁあああああっ!」 虹色ワンピース姿の晴恋は、指示棒を持ったままぶるぶると震えていた。敵の攻撃を浴びてぎょっとした表情をしている。(……私、情けないです) 晴恋の目からしずくがこぼれる。 これでは戦力外だ。 敵に恥をさらしただけとも言える。 あの時、どうして土壇場で固まってしまったのだろうか? できることはたくさんあったはずなのに。 自分のスキルには強力なバフ、デバフスキルが合わせて三つある。(……悔しい) ――ニキさん。 これを見たら、ニキはがっかりするだろう。 だけど一番がっかりしているのはやはり自分自身だった。 録画を最後まで見終える。ウミの戦い方にはびっくりとした。ぴょんぴょんと跳び上がって敵を翻弄している。やがてベルフラウとアイギスが敵陣地のクリスタルを破壊し、グラスオースの勝利となった。 視聴者コメントにショックを受けた。:一箇所だけ穴があったけどな。:晴恋だろ?:あの女はよわw(私……弱いんだ) 晴恋の両目から涙がぼろぼろと垂れる。 デスクトップをシャットダウンした。靴を履いてルームを出る。ジンジャエールのおかわりを汲みに行った。それをゴクゴクと飲んでふうと息をつく。ポケットからスマホを取りだし
――ヒイラギがノーファン村の領主に任命された その一文は、ログインをしているプレイヤー全員の頭上に表示されたのだった。 ノーファン村のヤマネコ食堂。そこでは小さな宴会が行われていた。 直方体の木造りの室内。木製のテーブルが規則的に並んでいる。古めかしい定食屋といった雰囲気であり、テーブルの上には様々な料理と酒瓶が並んでいる。焼き肉、油淋鶏、鳥の軟骨の串焼き、レバニラ、揚げ豆腐、ウインナー、山盛りフライドポテト、サラダ、他にもたくさん。 壁の掛け時計を見てウミは眉尻を下げた。いま午前八時前。悲しみの吐息をつく。 これから、どうなるのですか? 今頃トウマは、何をしているでしょうか。
ついに邪蛇狩りが始まった。 満天の空の下。山の上の地面の土は硬く、背の低い雑草が絨毯のように生えている。トウマとウミは、大きな岩の後ろに隠れて山頂の様子を見守っていた。今までずっと登山して来たのだ。 ちなみに先ほど夕食を食べた。昼と同じカレーライスである。もう飽きた。 山頂にはキャンプファイヤーが焚かれているようで、その煙がモクモクと上がっている。炎の灯りに照らされて、人々の戦う様子がよく見えた。 邪蛇、グランツエル。そいつは紫色に輝く肌をした大蛇であり、電車一両ぶんほどのサイズがありそうだ。まるで龍のように美しい。右に左にうねって地面を這い、人々に襲いかかる。 人々の先頭にいる
昼食時。 トウマは一度ログアウトをした。狭いマットルームに戻ってくる。毎度のことながら味の選べるログネストラーメンを注文し、割りばしですすって食べた。全ての味をすでに食べ尽くしたせいで、もう飽きてしまった。ちなみに今日の味はミソである。 ベルフラウと会って直接話をしようと思い、隣室の気配を探ってみる。だけど彼女がログアウトしてくる様子は無い。一時間待って、トウマはがっかりと肩を落とす。(真帆は昼食を摂らないのか?) 仕方無く、ゲーム内に再び戻った。 山壁の根元にぽっかりと空いた洞窟。周囲の壁は岩のように硬い。まるで獲物を飲み込むために大口を開けたクジラの口のようだ。これはダンジョン
村の服屋。 そこは宿屋の隣の直方体の建物だった。セルティラン衣服店と書かれた看板がでかでかと出ている。ベルフラウは顔だけ振り返り、口の端に笑みをたたえる。ふふんと笑った。やはり偉そうな態度だ。「うふふん、ここよ」「はいですぅ!」 ウミが元気に右手を上げた。扉を開けて三人で入室する。 こぢんまりとした木造の室内。さぞかし多くの服が飾られているのだろうと思ったのだが、一つも無い。だけど店の奥では何かの作業の音が響いていた。 ベルフラウは迷わずカウンターのそばへと歩み寄る。女性店員に話しかけた。「ふふん、こんにちは」「はい、ここは衣服店です。服の作成をご希望ですか?」「そうよ。







